この本はこちらでコメント欄を通じて薦めていただきました。
神様のボート。今まで何度あらすじを読んでも琴線に触れることはなく、購入には至らなかったのですが、今、手元にあるのだから不思議です。(誰に薦めて頂いたか。それはとても重要なことです。)
改めてこの本との縁を紡いで頂いたことに感謝致します。一ページ。一ページ大切に読みたい。そう感じる本でした。(読みたい衝動を抑えて明日の楽しみにする。それもまた幸せでした。)
この本は、恋愛の静かな狂気に囚われた母葉子と、その傍らで成長していく娘草子の遥かな旅の物語。~ あらすじより~
読み進める度に、色んな想いが溢れてきて、いつもは割りとすんなり感想を書く事ができるのですが、今回は何度も投稿寸前の記事を消しては書いてを繰り返しました。なんとか纏めることができたので、投稿したいと思います。
神様のボートとは狂気を感じさせるレベルのもはや自分では制御不能な依存する心や目を背けている事柄を表しているのではないでしょうか。一見、二人が乗ったのは悪魔の舟の様ですが、降りる救いがある所や、どちらを選ぶかを試す様な所が神様っぽいなと思いました。(草子に悪魔の舟だから抗えないのなんて言えないでしょうし…。)
初めは優しい母親に見えていた葉子がどんどん毒親に見えてきてハラハラしました。
微笑ましく見えていたものがどんどんゾッとする物に見えていくのです。
読み始めにとあるフレーズに引かれたのですが、草子の一言で我に返りました。
葉子のフレーズは一瞬、素敵に聞こえるのですが、現実から逃げることを正当化したいだけの言葉なのです。
一瞬でも魅せられた私は、苦しい時には逃げ場を作りたいと思っているのだと思います。
いつも優先されるのは姿を見たことのない父親。彼女の草子を愛してる気持ちや宝物と言う言葉も嘘ではないとは思いますがどこか歪みを感じます。(全ての言動から草子は彼の子である。それが最重要だと葉子が思っている様に感じます)
その環境でも強く自分らしく生きる草子が私の救いでした。
葉子が草子の父親と出会ったこと。
そして草子が生まれたこと。私は素直に喜びたい。近親者は複雑な心境でいい。ですがそこから離れた人間は生を受けたその子を喜びの気持ちのみで受け入れてもいいのではないかと思います。
私は我を忘れる様な恋をしたことがありませんし、きっと性格上できません、ですので、葉子の生き方は共感も賛同できません。 ですが、彼女を避難して追い詰める事は正しくない気がします。彼女の想いが報われます様に。そんな気持ちで最後までページをめくりました。
葉子が草子が自分の生き方を選択する力をつけるぐらいまでは自分の力だけで育て上げたという事実は認められべきで、あの人に会えたら、草子が素敵な子に成長した事を話して、有難う頑張ったねと言って貰えると良いなぁとすら思いました。
そしたら、おとぎ話の呪いの様にきっと彼女も本来の姿に戻れると思います。
江國さんの世界観や選び出す言葉たちはやはり素敵です。
書いている内容は狂気を帯びているのに、二人の住む世界には穢れを感じない。
同じ世界に住んでいるとは思えませんでした。
特に興味がなかったけれど、俄然、自分の住む場所に興味が湧いてきました。
見方を変えれば印象も変わる。街も人ももっと優しい気持ちで見つめてみたいと思います。